乗り換え

夫の惨劇は、30分ほど続いただろうか。
夫が一番辛いのだろうけれど、私も12時間のフライトの疲れが身体に重くのし掛かる。

乗務員の数人が走って、おしぼりの山や大量のティッシュや水を差しだしてくれた。
どうにか、着陸寸前に、降りる支度を整えた。

機内出口に向かうと、車椅子のお迎えが既に待っている。このフレンチポリネシアのファアア空港で、国内線に乗り換えるのだ。
普段の私達なら、トランジットの段取りに少し緊張する。

けれど、この時の二人には何も考える力がなかった。
呆然としたまま、私一人車椅子に乗せられ、4本のベルトで頑丈に身体を固定され、コンテナに乗せられる。
フランス領なので、周りから聞こえてくる言葉が何を話しているのかはさっぱり理解出来ない。
南国特有の、陽気な人々は大きな声でお喋りをし、時には大声で笑っている。
ゲッソリとした日本人に興味はないらしい。



空港1



さして広くはない空港の滑走路は、乾季とはいえ、それまで機内の冷房に晒されていた身体には暑く感じる。コンクリートの路面から、沸き立つようなTOKYOのような蒸し暑さ。
けれど、私達にとって、そんなことはどうでも良かった。

取り敢えず、コンテナから降ろされて、通関する。
ここで、ようやく日本人に出会えた。余りにホッとして、昔からの知り合いのような錯覚を起こしてしまいそうだった。
旅行会社の添乗員だけれど、夫の顔色を見て何を感じてくれた様子。

「大丈夫ですか?長時間のフライトでお疲れになりましたか?」

京都出身だという彼女は、長い黒髪をそのままに伸ばした30代半ばの印象。フレンチポリネシアの男性と結婚をして、「こちらに5年住んでいます」と優しく微笑む。
その笑顔に救われて、訳を話した。
すると彼女は、
「じゃあ、車でちょっと走って酔い止めのお薬を買ってきますね」
と、奇跡のような申し出をしてくれた。勿論、断る理由などない。料金は大体の額で…ということで、日本円で1000円をことづけた。
彼女とは、次の国内線のカウンターを通過してしまったら、もう会えないのだと言う。薬は、空港の係員に渡すので、受け取って下さいと。
よくよくお礼を言って、どれだけ貴女のお陰で救われるか、地獄に仏とはこのことです…と言って別れた。

待合い室機内でコンタクトレンズをはずして眼鏡にした。
くたびれきった私だけれど、カメラを向けられて、作り笑顔を浮かべる 苦笑
車椅子から立ち上がる気力は一切なし…。

40分ほど時間が経っただろうか。首都ファアア空港から、パペーテへ。搭乗のアナウンス。
華奢な小型の飛行機。この時も又、「ステップは自分で登ることが出来るから!大丈夫!」と言っているのだけど、10段もないステップの為に、又、身体をグルグル巻きにされる。
でも、有難う。私のためにしてくれているのだものね。お礼は言わなくちゃ。


ファアア空港



機内に乗り込んで30分。機内アナウンスが流れる。フランス語、フレンチポリネシア語、英語と続く。私の脳は機能停止。

着陸したものの、降りる人と残る人が居る。どうして?ぼんやりと考える。
普段なら、誰かをつかまえて、きっと質問している。
「私達はどうすれば良いのですか?」

けれど、この時は質問をするという発想も浮かばなかった。
ボーッと機内から窓の外を見つめたまま。
すると背後からガチャガチャと音がして、私は車椅子に乗せられ、三回目になる、ベルトぐるぐる巻き状態にされ、降ろされた。慌てて夫も私を追い掛ける。

えええ?
私達が何も言わなければ、どこに行っていたの?この国では、飛行機は日本の乗り換えバスと同じだ。車椅子をオーダーしておいて本当に良かった。私はトランクケースのように運ばれて、ライアティア空港の外に出された。

夫はひどく動揺している。
「ね、ね、東京に帰ったら代理店の人に言わなくちゃ!だって、僕達が車椅子だから、ここで降りることが出来たんでしょ!じゃなかったら、どこに連れて行かれるんだよ!」

動揺が怒りに変化しているみたい 涙

私は…
「死にはしないさー。どうにかなるさー」
と、心の中で呟きながら、夫には「うんうん」と頷いてみせた。

そして、とうとう。
遂にやってきたこの「時」 ガーン 
夫が旅の前から、ひどく心配していたボートに乗ることになる。

男前の女性船長に、
「彼はひどい乗り物酔いで、ボートに乗ることを心配しています」
そう告げると、彼女は、
「大丈夫、任せて。ゆっくり走らせるから」
と答えてくれた。(多分、そんなような英語だったはず)


ボート乗船



はじめは、ゆっくりと海の上を滑るように走るボート。
けれど、波が荒くなってくると、ボートは急速にスピードを上げる。夫は強い力で私の手を握る。
大丈夫よ。あと少し!

船長がこちらを振り返った。目で「大丈夫?」と。
私も、目で「OK!大丈夫!」と答えた。


往路 海



そうして、見えてきた水上バンガロー。
ああ、神様。どうにか無事に辿り着きそうです。有難うございます。


水上コテージ1



ようやくボートを降りることが出来た。

ル・タハア・アイランドリゾート&スパ。小さな島に一軒だけ建つホテル。

よく陽に焼けたフレンチポリネシアの男性スタッフが、車椅子を用意して私を待っていてくれた。
今日から、この車椅子を、ホテル滞在中借りることになる。お世話になる車椅子。

ホテルの桟橋に足を乗せた途端、降り出したスコール。
ここでも、私は「雨女」振りを発揮する。

レセプションでチェックインした後、部屋に向かう途中、空から陽が射し始めた。


初日 海



「綺麗!!!」

単純な言葉だけれど、口から出た第一声は「綺麗!!!」だった。

やっと、やっと…辿り着いた。
隣では、心からホッとした様子の夫が、「ふううう」と深い溜め息をついた。

今日から、日本語を聞くことのない8日間が始まる。


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2009/06/07 02:45 | 旅行のことCOMMENT(10)TRACKBACK(0)  TOP

コメント

yumiko様

おお!お久し振り!blogではね(笑)

綺麗よねー。世界は広いのだとシミジミ。
おっ!yumikoちゃんに写真を誉められた!わーい!スッゴク嬉しいe-415

一緒に行こうよ!死ぬ気になったら行かれるさー!死ぬ気で行こう!テルマ&ルイーズ。又、私達の旅が始まる☆

No:969 2009/06/08 13:11 | Natsu #- URL編集 ]

Re: 乗り換え

きれいだね~。
写真も上手だね~。
私も行きたいなあ~。

No:968 2009/06/08 12:48 | yumiko #- URL [ 編集 ]

日日是好日@ゆうこ様

えー!ゆうこさん!奄美大島出身なんですか!羨ましい~e-420 皆が憧れて、行きたがる所ですものねe-255

> 今だから、楽しめる事がいっぱい有っただろうね。

うん、本当にそう思います!「今」じゃなければ、贅沢だと諦めていただろうし、この先では遅いかもしれないし…。タイミングと決断力かな。車椅子で水上コテージって…旅行会社の人に分かってもらうのに、ちょっと苦労したかもe-351

> 体調不良は、体の不調で私自身はとても、元気ですよ。

これって、凄い言葉。本当に凄い。ゆうこさんの、その力強さと明るさはどこからくるのかな。
私、それまで全く平気だったのに、体温計の温度を見て「その気」になるタイプなのです^^; 40度あったら、死ぬわ~って。
先日、凄い高熱だ!と思って熱を測ったら6度4分…。その数字を見た瞬間、元気になりました。アホでしょ…。

No:967 2009/06/07 22:56 | Natsu #- URL編集 ]

れんげ様

いえいえ。「Natsuさんご夫婦ご立派」…ではなく、主人が我慢強いだけのような気が^^; 多分、相当な緊張感だったと思うの。
私の強引な旅のプランを、よく付き合ってくれたなぁって。でもねー、本当に「今しか無い!」って直観的に感じて出掛けてしまった^^;

筋ジストロフィーという病気は厄介よね。私はこの病気との付き合いが長いので、やっとやっと…今の割り切った心境でいるのかも。
先ずは「病気を受け入れる」ことが出来たら良いよねe-465 まだ、れんげさん、若いからだ!私がれんげさんの年齢の頃は…病気に対して、もがいて、あがいて…いつも心と戦っていたなぁ。

その為の「Natsu's Heart」にしたいと思っているので、一緒に頑張りまっしょい!れんげさんは一人じゃないよe-415

No:966 2009/06/07 22:40 | Natsu #- URL編集 ]

daria様

わー、dariaさんに誉められたe-415
チャレンジャーなの。実は、私。これまで、タイやスペインやサイパンはともかく、インドとロシアは自分でも「どこまで行くねん」と思った(笑)

私、英語は話せないのよ。相手の言っていることは何となく分かるんだけど…。だからもう、話す相手の目を見つめ、ハートで訴える!加えてジェスチャーね^^; 何とかなるものだね。
生まれて初めて、タイでコンテナに乗せられた時は、かーなーり!焦ったけどe-351
「私、どこに送られるの~?」って。でも今、ちゃんと日本に居るからOK!

まだまだ旅の一日目。後、8日間。お付き合いしてね☆

No:965 2009/06/07 22:28 | Natsu #- URL編集 ]

奈緒様

そうでしょ!スゴイ所でしょ。「島」は絶対に嫌だと言うマーチンと、再三に渡り夫婦で話し合い。結局は、ホテルが取れず、日本人の全く居ない「島」になったの^^;
しかし、これが格闘の日々の始まりであったよe-351
でもね!私は冒険大好きだから!楽しかった!

蝋燭の件ね、フフフ。忘れずに取ってあるよんe-414 でも、折角のよっちゃんのお誕生日、使い古しじゃ申し訳ないよね?新しいの、プレゼントするから!(って、安過ぎ^^;)
じゃ!お誕生日会を兼ねた新年会!やろう~e-239

No:963 2009/06/07 22:10 | Natsu #- URL編集 ]

エメラルドグリーンの海

私、田舎が「奄美大島」の先の「徳之島」っていう
ひょっこりひょうたん島みたいな所だから

蒼い空!!白い雲!!緑の海!!
って背景、見慣れてるはずなんだけど

ここは、やっぱり別世界だねぇ
すごいねぇ~
私は、徳之島に帰るのすら意を決して行ったものだけど

なっちゃん夫婦は、すごいな
良い時に良い場所を選んだよ、偉い!!
今だから、楽しめる事がいっぱい有っただろうね

早く早くぅ-----教えて!!と思います。

PS
体調不良は、体の不調で私自身はとても、元気ですよ。
体に、負けていられないわ(笑)
って、意味不明だけど
とにかく元気よ!!

No:962 2009/06/07 21:34 | 日日是好日@ゆうこ #SFo5/nok URL編集 ]

Re: 乗り換え

素敵~i-233 海と空の色が何とも言えない。
言葉も通じない 人もあんまりいないところへの旅行を決行されたNatsuさんご夫婦は 
本当に立派だわi-199 旅慣れていらっしゃるのかしら?
まだまだ シチュエーションに合わせての 自分の身の処し方を把握できていないので 
ついつい無理をしてしまって 毎日を楽しむという域に達していないわ・・・私i-241

破らなければいけない殻が 結構たくさんあるのかも・・・ 

No:961 2009/06/07 20:43 | れんげ #uvrEXygI URL [ 編集 ]

Re: 乗り換え

よし、良く頑張ってる!って、過去の二人に言ってみる……
私は、だめだぁ、だから語学のできないところは。
フランス語は生まれてこの方、クロスしたことがない言語。
たとえこんな美しい海と引き換えても、ビビる。
なっちゃん夫婦はチャレンジャ~やな~。

No:960 2009/06/07 20:32 | daria #- URL編集 ]

Re: 乗り換え

なんかなっちゃん、想像以上にスゴイところに行ってたんだね!!!
楽しそう♪♪ 続き楽しみにしてるよー
そして蝋燭の件、忘れないでね(笑) でも、よっちゃんの誕生日って1月2日(お正月)なので、ケーキ食べたこと、ほとんどないんだよね。。。おせちに蝋燭たてます、なーんてね。

No:959 2009/06/07 14:16 | 奈緒 #- URL編集 ]

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