深まる疑惑 Ⅰ

とうとう運命の日がやって来た。父にとって。
転院の日だ。

前日までの天気予報では「午後から雨」と、TVのニュースが伝えていた。
良かった。私は安堵した。転院先の病院は、雨の日には絶望的とも思わせる程の切なさを感じさせる。寂しげで…山の中に一人、取り残されたような不安。

自分の親をそんなところに残して来るということ自体、受け入れられない。けれども、現実も共に受け入れなければならない。

昨日、私達夫婦は二人、新橋の大学病院で検査の予約が入っていた。どうしてもキャンセル出来ない状況だったので、多忙を極める弟に転院に関する一切のことを任せた。
会計を済ませ、荷物をまとめて車に運び、父を連れて行く。
病院に着くまでの間、父は弟とよく喋ったと聞き、精神的にも落ち着いているんだなぁとホッとした。

私達夫婦の検査は、それぞれ予定より早い時間に終わった。
主人が言う。
「ねぇ、お父さんの所に行ってあげようよ」
私は心から、主人に礼を言った。

大学病院を出て、霞ヶ関ランプから首都高に入る頃には大粒の雨が降り出していた。同時に湧き上がる不安。
17:00を過ぎ、ようやく八王子の病院に到着。辺りは雨雲に覆われ暗かった。その暗がりの中に、不自然なほど明るく浮かび上がる病院。蛍光灯の白さが不気味なほどの光を放つ。


          心象風景


受付に行くと「面会は16:00迄なんですよ。今日は初日なので、特別に許可します」
そう言われ、恐縮しながら父の病棟に着いた。
建物二階のナースステーション。50歳はとうに過ぎていると思われる看護師が二人。明るく広く、清潔なイメージに似合わない。どうしても感じる違和感。
通された部屋は病室ではなく、簡易的な診察室。ここで家族の話をするのか…。

「○○さーん。お嬢さんご夫婦が面会ですよ」

ホッと安堵の表情をした父が、見慣れないシャツを着て現れた。来ると想像していない、思いがけない来訪者を心から歓迎してくれた。

昼に転院の手続きを済ませたはずの父の荷物が、ダンボール箱四つ、運びこまれる。

「洋服は全てリースになりますのでね、全部持って帰って下さい」

言っている看護師の言葉の意味が分からなかった。夫婦で顔を見合わせる。
説明の意味を理解しない私達に、夕飯の配膳の仕度を控えている看護師はたたみかけるように言う。

「ですから。全てリースなんですよ。この病院は」

だから見慣れないシャツを着ているのだ。そんなの初耳だ。どうして?山のような着衣が目の前にあるのに。

「本当に申し訳ないんですけど。これから50人の配膳を全て二人でやらないといけないんです。もう…いいですか?良かったら、昼間来て下さい」

不安気な表情の父を一人残し、私達はドシャ降りになった雨の中を帰った。
                 

あの、病院見学に行った日の疑惑…が甦る。あの違和感。

姥捨て山。

嫌な言葉だけれど、その言葉が私の気持ちのざわめきを消し去ることは、この日、眠るまで無かった。

<続く>




2008/10/24 21:00 | 父のことCOMMENT(0)TRACKBACK(0)  TOP

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