時計を見ると13:00を少し過ぎた頃だった。陽射しは強さを増していく。
セシルとマリウスと一緒にコーラルガーデンに行ってみようと思った気まぐれは、最高の時間をくれた。
私達夫婦だけでは、いつものビーチの指定席で読書をしたり、昼寝をしたり、魚にパンをやったりして過ごすことしか思いつかない。
声を掛けられて、フランス人の親子と一緒に砂浜を歩くうちに愉快な気分になってきた。
この笑顔。天使のよう。

補助具を着けていない私の足元はおぼつかない。セシルと夫が両脇から支えてくれる。素足に感じる砂の感触が気持ちいい。
10分は歩いていないと思う。又、あの深い緑色の景色に出会った。
緑の色は、「人間はここには入ってはいけないよ」と言っているように感じる。

この小さな水溜りのような、海水の通り道にバシャバシャ入る。
そうすると、あのメリーに出会ったコーラルガーデンに着いた。今日は一緒に話しながら歩く友達が居るので、最初に歩いた時よりも距離が短かったような気がした。
夫は海の中を歩きだす。

そうすると、一昨日出会ったあの犬が、一目散に走ってきた。
私は、生まれて初めての「犬の友達」に大きな声で叫んだ。
「メリー!会いたかったわ

」
セシルが笑った。
「この犬はメリーじゃないわ。ジョンって言うのよ」

「そんな!私はこの前この犬に出会った時、名前はメリーって決めたの。ね!メリー!」
マリウスが遠慮がちな声で言った。
「ジョン…」
私は小さな衝撃を受けた。この犬の名前が「メリー」であろうと「ジョン」であろうと、どうでも良いことなのに。よく分からないけれど、きっと初めての犬の友達だったから。おかしな確信をしていたのだ。
マリウスは、自分の名前が刻まれたボードを持って勇敢に海に探検に出掛けた。虫採り用の網を持って。この網で、美しい魚たちを生け捕りにするつもりだ。

素敵な親子。フランスの雑誌の1ページのよう。

透き通る波打ち際でしゃがみ込む私達に、セシルは「こっちへ来て」と手招きをする。
腰の辺りまで水の中に入っていくと、薄いコバルトブルーの中に宝石のような珊瑚と貝の塊があった。
(波打ち際)「わぁ…」
言葉を失う。
珊瑚にピッタリ身を寄せる白い貝は、口を開けると鮮やかなブルーを覗かせる。こんな色の生き物、見たことがない!
波に揺られる私に、セシルは椅子を用意してくれた。有難う、素敵な気遣いに感謝するわ。
夫は丁重にお断りしたのだけど、セシルの親切を断り切れなかった。
海の中で椅子に座っていると、意外な力で波に身体を揺すられる。夫から、もう何度も聞く言葉。
「う、気持ち悪くなってきた」
けれど夫も、波の揺れよりブルーシェルの美しさに、強く惹かれた様子だった。
二人で珊瑚を覗きこむ。時間を忘れてしまった。
色に酔った時間は、瞬く間に過ぎた。
強い陽射しは、影を薄くしている。フランス人の親子は、「もう戻りましょう」と言う。
そうね。思いがけない時間を有難う。アナタたちと、ここでブルーシェルを見ることが出来て、本当に幸せだった。
最後に、何度目かの記念撮影。夫とマリウス。
マリウスはセシルに促されて、何度も私の頬にキスしてくれた。天使の口づけ。
分かれ際、マリウスは照れたように私達に両手を差し出した。手にはいっぱいの白い貝殻。
何て素敵なプレゼント。
私達は、セシルとマリウスと、ジョンと珊瑚。ブルーシェルを決して忘れない。

さぁ、私達も部屋に戻ろう。

明日もきっと晴れる。

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