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大掃除

今のところ、順調な回復を見せている父。

思えば…これまでに何度「生きるの、死ぬの」と騒動を起こしているでしょう。

警察から「身元不明の老人、一名、搬送」などと、いきなり電話が掛かってくれば…「ははーん、これが振り込め詐欺ね!」と私が笑い飛ばすのも、仕方ないことだと思います。

その後、慌てて病院へ駆け付けるERに横たわる父を発見「この人、父親です!」と叫ぶ三週間近くかけて復活する「どうして、こんな所(病院)に閉じ込めた ガーン 」と散々文句を言う。

困ったものです 絵文字名を入力してください

の強い人」

ではなくて。

悪運の強い人」

…と、私が感ずる所以です。

今日から三日間、留守にします。
勿論、私だけですけれど。

夫は留守にする訳にいきませんからね。



yamabuki-ガーベラ

by yamabuki

父のマンションに行って、鬼の居ぬ間の大掃除です。

父は昭和一ケタ生まれ。物が捨てられません 汗-GL

もーね!これだけ人に心配させて!お返しに、部屋をうんと綺麗にお掃除しちゃうんだから!

退院してきて驚くなよ!へへんだ!

まだ絶対的な「回復」ではありませんけれど、私は信じることにしました。
悪運の強い、あの親父。きっと帰って来ます。あの部屋に。

私にも、多少の元気が出て来ました 絵文字名を入力してください

毎度毎度、お騒がせしております。


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私、妹ではございませんけれど…

昨日の Natsu's Heart では、弱音を吐いてしまいました。

あんなエントリーでは、読んでいらっしゃる方に心配を掛けるかもしれない。
けれど、どうしても「心」の中から吐き出したくて…文字にしてしまいました。

ご心配下さった皆様、本当に有難うございました。
そして、申し訳ありませんでした。

お陰様で、私は勇気を頂き、愛情を実感しました はーと
心配の原因は父なのです。
6月29日に入院した父は肺炎だったのですが。
その容体が1日に急変し、「人工呼吸器」なるものについて、判断を求められました。
突然に病院に呼びつけられても、瞬時に重大な判断は出来ません。

無知とは恐ろしいものです。
臨床検査技師をしている従姉妹に電話で尋ね、「ことの重大さ」にやっと気付きました。

「人工呼吸器」は、一度取り付けたら日本の法律では二度と外すことが出来ないこと。例え、植物状態になったとしても。
けれど、もし「助かる命」であったなら…。「取り付けない」という判断も、し兼ねます。

どちらの可能性を取るか。信じるか。そんなこと、人間が決めても良いのでしょうか。

そう考えると、堂々巡りで「人間の生き方・死に方」について悩んでしまい、胸が苦しくなって…脳みそがカチカチに固まりました。

そして今日。
死刑宣告にも似た心境で病院に行くと…。

「お父さん、元気にしてますよー」
と、明るい看護助手さんの声。

もううううううう。
余りにホッとして、面喰いました。


エンジェル プルメリア

by プルメリア

そうして、主治医に詳しい説明を受けます。

まだまだ父の回復には時間が掛かるということ。でも、きっと大丈夫だから…と。人工呼吸器については、まだ判断するには時間に余裕があるとお聞きしました。

父の顔中を覆う、大袈裟な酸素マスクはまだ外すことは出来ないようですけれど、とにかく、重篤な状態は脱したとのことで、心がすぅっと軽くなっていくのが分かりました。

先生のお話を終えて、父のベッドに行くと。

30代後半の様子の看護師さん、二人に声を掛けられます。

「妹さんですか?」

は?

怒っちゃ駄目、駄目。
ここは耐えて、ニッコリ笑わなくては。

「あっ!ゴメンなさい!ご家族ですよね!失礼しました!」
アナタ達、笑顔が引きつっているわ 絵文字名を入力してください

あのね。そういう時、そんなに真剣に謝っちゃ駄目よー。本気で言ってるってこと、バレたわよー むぅ…

何故、私が77歳のジイサンの「妹さんですか?」と聞かれたかは  だけど。

まーまー、いいさ。おとっつあんさえ、元気になってくれればさぁ。
この看護師さん達のお陰で、今日は完全に立ち直ったのでした コーラ



※ 加筆・訂正 

私のこの記事で誤解を招く恐れがあるので、加筆します。
blogを読んで下さった方からのご指摘です。

人工呼吸器は、現状が回復して自力呼吸が可能になった場合、外すことが出来ます。
現段階で外せないケースは、事故や病気で人工呼吸器を装着し 、装置があれば生命維持出来る場合です。



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独り言

いつも明るく、朗らかで居たいと思う。

平和な気持ち。穏やかな気持ち。

けれど、本当は気付いている。
そんな日ばかりではないことに。

生きていれば当たり前。
切なくて、苦しくて、悩んで悩んで…それでも答えは出せなくて。

何が正しい?

人生に「正しい答」などないのだと思い知る。



タハア



そんな切ない夜に届くメール。

こんな夜中に、私を泣かせてどうするの?
明日の朝、目が腫れちゃうわ。

せっかくの美人が台無しになるわ。

少しだけ、気持ちが晴れた。流した涙の分、心が軽くなる。

だから、きっと大丈夫。


流れた涙は、嬉し涙。安堵の涙。

人生について、思い悩む日があってこその「人生」だと思い知る。

今夜は、ほろ苦い夜。


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タハア 最終日 − お名前は? −

今日で最後だ。
このバルコニーで、時間を気にせず朝食をゆっくり味わうことが出来るのは。

ル・タハア・アイランドリゾート&スパ。
このホテルで丸一日、ゆっくり過ごすことの出来る終わりの日。

大切な日。この島では「何もしない」と決めてきたけれど、それでも何かやり残したことはないだろうか?

夫と相談して、ジョンに会いに行くことにした。今日はジョンにプレゼントを持って。ジョンに会える最後の日だから。

日課になったコーラルガーデンへの道。
結局、このホテルのプールには一度も入らなかった。目の前に、コバルトブルーの海があるのだもの。


7日目1



今日も咲く、南国の花。


7日目-花



コーラルガーデンのビーチ。昼間はバーベキューの客で賑わっている。
ジョンを探す。今日はアナタにプレゼントがあるの。


コーラルガーデン


「ジョン!ジョン!」

大きな声で叫んでみたけれど、今日は違う犬。ジョンではない。
苦手なの、とにかく犬は。ジョン!早く出て来て!


7日目6



小さな犬でも苦手なのに…大きな犬は、心臓が止まりそうになる。
その時。仔犬かと思うような、決して身体の大きくはない犬が顔を出す。


7日目2



この子、意外に苦手ではないかもしれない。大きな黒い瞳で私を見つめるのだもの。
あなたはだぁれ?お名前は?


7日目3


そんなに人が恋しいの?
あ、お腹が空いているのね。じゃ、ジョンに持って来たプレゼント、あなたにあげる。
とっておきの、このホテルのハムよ。朝ご飯を少し、持って来たの。
7日目4


7日目5


お終いよ。ハムはもう無いの。あげたいのだけどね。もっともっと。
でも、本当にもう持っていないんだってば。
そんなに切ない顔をして見つめないで。


犬2



この後、この子はどこまでも着いて来る。
切ないわ。何とかしてあげたいけれど。

アナタ、私の二人目の犬のお友達にならない?


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六日目 − 日本語レッスン −

「How are you?って、日本語で何て言うの?」

ん?

「ご機嫌如何ですか?」

という意味だけれど…。私は日本で「ご機嫌如何ですか?」などと人に尋ねたことはない。
皇室の方が通われる有名私立の学校じゃあるまいし。しばらく考えて私は答えた。

「あのね、多分ね、日本でその言葉は使わない」

「じゃ、何て言うの?」

「お元気ですか?」
かな…。でも、「お元気ですか?」なんて、手紙やメールならともかく、日常会話では使わない。少なくとも、私は。

こんなに難しい日本語を、懸命に覚えようとしているテレナを偉いと思う。

「日本語の勉強が好きなの?」

彼女は、白い歯を魅力的に覗かせて、思いっ切りうなずいてみせる。
だからなのだ。テレナにとって、この部屋に来る「時間」はとても貴重なものなのだ。

レジェンドの厚紙にこだわる私達の質問など、耳に入る訳がない。


テレナと私

勇気ある私。勇気ある皆様。この写真、私、スッピンですの!眉毛以外は…。

私の口癖。
「そそそそそそ!」

テレナは「YES!YES!YES!YES!YES!YES!…ってこと?」と聞く。

ああ、それも違う。
難しい。

「Just a moment. 」
この言葉が出て来ない時、私は言う。
「ちょっと待って」

すると、私が何かを考えている時、決まってテレナは必ず茶化したように言うのだ。
「ちょとまって。ちょとまって」

そうして、明るい声で身体を折り曲げながら笑う。一緒に過ごす時間が本当に楽しい。

ちょと…じゃないの。ちょっとだからね」
テレナは一度言ったことは必ず覚える。

「I'm sorry. …は『ゴメンなさい。ゴメンね』で合ってるよ」

すると夫が歌うように隣で言った。可笑しな音程で。

「ゴメンね、ゴメンね〜♪

テレナはすぐに夫に訪ねる。
「ゴメンね、ゴメンね〜?」

私達は、同時に悪戯心がはたらいた。

「日本ではね、I'm sorry. のこと、この節をつけて言うのよ」

夫は繰り返す。
「ゴメンね、ゴメンね〜♪

テレナも繰り返す。
「ゴメンね、ゴメンね〜♪

これが又、実に上手なのだ。

「いい?今夜、これから行く日本人の部屋に行ったら、必ず今の調子でこの言葉を言ってね」

勉強熱心なテレナは何度も繰り返す。U字工事に負けていない。

身体を折り曲げて大笑いをするのは、今度は私達の方だった。涙が溢れて、泣き顔のようになってしまった。あんまり可笑しくて、声も出ない。

テレナも一緒に笑っている。
でも、いけない。ここは日本の帝国ホテルなのだから。

いきなりホテルのスタッフが「ゴメンね、ゴメンね〜♪ 」と言えば、気を悪くするお客様もいるはずだ。いや、怒りだすかもしれない。

どうにか。どうにか私達は「理性」を取り戻した。
これは、日本のコメディアンの決め台詞であること。日本で流行っていること。
本当は、お客様には言わない方がいいこと。

ああ、本当に愉快だった。
テレナが上手過ぎるからいけないのよ。日本語。

彼女は今夜も、「レジェンド」の厚紙をベッドの上に飾って帰った。
私達は、笑い過ぎて、今夜ばかりは「レジェンド」のことなど、どうでも良くなってしまった。


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世界一、悪運の強い男

私は本気で思っている。

父のことを。「世界一、悪運の強い男」だと。

今日は朝、何故だか5時過ぎに目が覚めて、私は5:30から一時間ほど庭の手入れをした。早朝の草むしりは爽快だ。夜になって始めるよりも、ずっと気持ちが良い。

けれど、一仕事を終えた私は結局、リビングに戻ると眠くなってしまった。

電話のベルで起こされる。
いつもお世話になっている、訪問看護センターの看護師さんの声だった。

「本当に、本当に急なことなんですけど…」

この言葉の後に、良いニュースが続くとは思わなかった。彼女の声は緊迫していたから。

「お父様が、肺炎で緊急入院されたんです」

やっぱり。
私は従姉妹に言われて、出来る限り、一日に一度、独り暮らしの父に電話をしている。
昨夜は電話に出なかった。少しだけ、嫌な予感がした。

その後、夜、遅くになって、私は目がくるりんと回り、不思議な目まいを起こしたから。


bukubuku.jpg

by toyou

父のところには、週に7日、誰かしらが看護、或いはヘルパーとして見て頂けるようにお願いしている。

たまたま今日は、朝の早い時間の訪問看護だったのだ。
いつも親身になって下さる看護師さんは、すぐに父の異変に気付いた。

肩でゼエゼエと息をし、調べると、酸素濃度が80という低い数値であったと仰った。
そのまま病院に連れて行って頂いて、いつもの「受診→即刻入院」のパターン。

父は、自分の身体に自信があるのだ。何の根拠もない自信。
自信など、あってはならない父なのに。

「一人だったら」

そう思うとゾッとする。

今日が、看護師訪問の日では無かったら?夕方遅くの訪問であったら?この悪運の強さ。

見舞いに行った私達夫婦の顔を見て、父は言った。

「あれ?どうして分かった?」

アホか!と叫びたかったけれど、そんな呑気な父の顔を見て…何も言えなくなった。

これまで何度、偶然の命拾いをしていることか。自由に、思うように生きてきた父が。
今や、「生きていること」さえ、奇跡だと思うようになった。

夜になって、熱も上がってきた父は不機嫌な顔をして私を睨む。
まぁまぁ、睨む元気があるならイイでしょう。

私は確信する。
父は「世界一、悪運の強い男」なのだ。


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六日目 − ルームキー −

ガチャン。

激しい音を立てて、ドアは閉まった。

「鍵ー!!!」

叫んでも事態は変わらない。途方に暮れる二人。

昼間はコーラルガーデンに探検に出掛け、夕食は子羊数本に、海老が7個。
身体に力が入らない。

レセプションに行けば良いのは理解している。
けれど、私達はくたくたなのだ。

夫はコテージのドアを出て、暗がりの中にポツンポツンと等間隔に光るオレンジ色の灯りを頼りに、ハウスキーピングの姿を探している。

「無理だってー。こんなタイミングで人が通ったら奇跡だよー」



夜



仕方がないので、どうにか二人でレセプションに行くことにした。
私は車椅子に乗る。
夫はもう、ヤケになっている。下肢障害の夫が、この時は全速力で走りだした。車椅子の背中を押しながら。

夫は「走ること」は出来ないのだけれど、その時の私は頬に風を受けた。確かに。そのくらい、彼は必死で足を動かさなければ、動くことも出来なかったのだと思う。

レセプションに着いた。
夫は顔を真っ赤にして、ハアハアと胸で息をしている。

「イヤオラナー」(こんばんは)

「あの…部屋に鍵を残したまま…ドアが閉まっちゃって…」

「まあ!じゃ、今日は外で寝ないとね ウインク絵文字名を入力してください

彼女の言葉に、その場に居合わせた人達が笑った。
私達も可笑しくなって、一緒に笑った。

「それは嫌よ。お願い!キーを貸して」
「オーケー」

首を左右に振りながら、彼女は答える。このウィットに富んだ会話のお陰で、愉快になった。
そうして、私達は見事にルームキーを手に入れた。


三日目3



よく聞く、海外旅行の失敗談。
こんなにオーソドックスで、滑稽な失敗をするなんて…どうかしている。
やっぱり、強い陽射しと空腹のせいだ。

部屋に無事に戻ることが出来て、ホッとしていた。聞こえるノックの音!テレナだ!

テレナに、さっき起きた「事件」の事を話す。彼女は大笑いをしている。
テレナの仕事が終わると、恒例の「日本語教室」が始まる。

勉強熱心な彼女は、いつも「日本語を勉強するためのノートとペン」を持っている。

「How are you?って、日本語で何て言うの?」

ん?

「ご機嫌如何?…意味は…んー、ご機嫌如何?だけど、日本では使わないなぁ。何て言ったらいいんだろう」

しばらく私が首をひねっていると、テレナは、
「いいの。分かったわ」
そう言って、時間を惜しむように次々と私に質問を浴びせる。

日本語の難しさを、つくづくと彼女に教えられた。

「日本に帰ったら、私も英語の勉強をするわ。テレナの為にね」

そう言うと、彼女は明るく笑った。私の手を握りしめて「有難う」と言ってくれた。
まだまだ、彼女に教えるべき日本語は沢山ある。


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会、始動!

今日は夕方から、「Natsu's Heart」を共同運営する奈緒ちゃんと打ち合わせ。

記念すべき、第一回打ち合わせです。

詳細は、奈緒ちゃんのblogをご覧下さい。

奈緒ちゃんとはお喋りしたいことが沢山!でもね、決めなくてはいけないことも一杯あるので…。
脱線しつつも、大分固まりました くり抜きハート1

先ずは「Natsu's Heart」という会の名前を、もっと分かり易くします。
女性のための「筋疾患の会」であると、誰にでも理解してもらえるように。



ブーケ

by Motoko Alexander


そうして、何よりモットーは。

「敷居が高くなく、誰でも気軽に集まることの出来る場所」

只でさえ情報の少ない「女性・筋疾患の患者さん」たち。
一人で悩みを抱えずに、ざっくばらんに色んなことを話せる場所。

私は奈緒ちゃんに出会うまで、自分の病気が恐くてたまりませんでした。

どんな風に進行するのか。
いつまで、自分の足で歩くことが出来るのか。
手足の自由は、いつまできくのか。

見ないように、見ないようにして来ました。

そんな私を大きく変えてくれたのが、奈緒ちゃんとの出会いです。

現実を見つめてみようと…思いました。

もし、一人で悩んでいる筋疾患の方がいらしたら…。
「会」の姿が見えて来ました。
当面、会費は頂きません。

これまで、筋ジストロフィーの女性の患者さんと、この病気について話すことは殆どありませんでした。
けれど、今日の楽しかった時間 絵文字名を入力してください

筋ジストロフィーの患者同士だからこそ。
患者にしか分からない疑問、問題点、悩みなど。

奈緒ちゃんと一緒に話した時間は、一瞬のように感じました。

近い内に、「会」の名前も発表出来ます。

最初の一歩を、確実に踏み出しました。


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六日目 − 夕食のお値段 −

今日はもう、充分過ぎるほどに遊んだ。

バニラレストランには、二度と顔を出せない。あんな失態を犯したのだもの。

「今日の夕食はルームサービスを取ろう」

夫が言う。

「そうだね、私もくたくた。良いアイディア!」

二人でルームサービスのメニューを睨む。
この様子は、決して「見る」ではないだろう。

そこには「日本語表記」とフランス語が並べて書かれていた。

例えば、このように。

ムニエル
meuniere

サケや舌平目などの魚に小麦粉をまぶして、バターで焼き上げた料理のことです。


ムニエルは理解出来る。けれど、その下の文字は何と発音すれば良いのだろう。
メウニエラ? メウンイエラ?

この時、私の小さな脳みそは、発想力も乏しかった。南国の陽射しに、頭もやられてしまったみたいだ。

もー!読めない!夫の自慢の電子辞書も役に立たない。

夫は「子羊」が食べたかった。「子羊の何とか…」
何とかはもう忘れてしまった。

私には、どう読んでも「コッテス アグネア」にしか読めない。

私は海老の料理が食べたかった。

どうにでもなれ!とルームサービスの内線に電話をした。

「こんばんは。料理をお願いしたいのだけど、発音が分からないの。コッテス…コッテス…」
そう繰り返す私に、電話の向こうでは「ジャポネ」という声が聞こえて、愛想の良い男性の声に変わる。

何度か、単語の発音を繰り返している内にようやく理解してくれた。

「コッテス アグネア」としか読めなかった単語は「コート アニョー(agneau)」と発音する。

海老の時にも相当な苦労をした。

オーダーが無事に済んで、私は乾いた喉をビールで潤す。ホッと一息ついた。

しばらくしてノックの音!それは楽しみで、ワクワクする。だって、あれだけ苦労をしてオーダーした料理だもの。

だけれど、目の前に置かれた料理に呆然とする。


夕食2

(お値段、4900円)


分からない。たった数本の子羊。山のようなポテトフライ。これが、4900円 絵文字名を入力してください

もう一つの料理。


夕食1
(お値段、3500円)


料理を前に面食らう私を見て、夫は大きな声で笑っている。涙を流して。
私、全然、可笑しくないのだけど… 涙


この仔羊と、海老の大きさは、付け合わせのポテトときゅうりから想像して欲しい。

「腹の足しにもならん」って、今、使うべき言葉だわ。 

いつも料理に必ず添えられているフランスパン。これをいつも、ビーチでの魚の餌にしていた。
けれど、今夜ばかりは人間が食す。ああ、有難い。
パンがあって良かった。

後はミネラルウォーターで、お腹を満たす。

帰国して分かったことだけれど、ル・タハア・アイランドリゾート&スパは、日本の帝国ホテルなのだ。多分。コーヒー一杯で900円。税抜き価格。

この島では何をするのも冒険だ。スリルに満ちている。

三口で済んでしまう夕食を終えて、星空を見るためにバルコニーに出た。

ガチャン!

やってしまった。ルームキーは部屋の中にある。
押しても引いても、部屋の窓が開くことはない。

星空の下、夫は笑ってはいなかった。

「もう、疲れたよ」

私だって、もう疲れたわ。


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六日目 − ブルーシェル−

時計を見ると13:00を少し過ぎた頃だった。陽射しは強さを増していく。

セシルとマリウスと一緒にコーラルガーデンに行ってみようと思った気まぐれは、最高の時間をくれた。
私達夫婦だけでは、いつものビーチの指定席で読書をしたり、昼寝をしたり、魚にパンをやったりして過ごすことしか思いつかない。

声を掛けられて、フランス人の親子と一緒に砂浜を歩くうちに愉快な気分になってきた。
この笑顔。天使のよう。



マリウス




補助具を着けていない私の足元はおぼつかない。セシルと夫が両脇から支えてくれる。素足に感じる砂の感触が気持ちいい。
10分は歩いていないと思う。又、あの深い緑色の景色に出会った。
緑の色は、「人間はここには入ってはいけないよ」と言っているように感じる。



コーラルガーデン2



この小さな水溜りのような、海水の通り道にバシャバシャ入る。
そうすると、あのメリーに出会ったコーラルガーデンに着いた。今日は一緒に話しながら歩く友達が居るので、最初に歩いた時よりも距離が短かったような気がした。

夫は海の中を歩きだす。


コーラルガーデン1



そうすると、一昨日出会ったあの犬が、一目散に走ってきた。
私は、生まれて初めての「犬の友達」に大きな声で叫んだ。

「メリー!会いたかったわ コーギー?

セシルが笑った。
「この犬はメリーじゃないわ。ジョンって言うのよ」


犬



「そんな!私はこの前この犬に出会った時、名前はメリーって決めたの。ね!メリー!」

マリウスが遠慮がちな声で言った。

「ジョン…」

私は小さな衝撃を受けた。この犬の名前が「メリー」であろうと「ジョン」であろうと、どうでも良いことなのに。よく分からないけれど、きっと初めての犬の友達だったから。おかしな確信をしていたのだ。

マリウスは、自分の名前が刻まれたボードを持って勇敢に海に探検に出掛けた。虫採り用の網を持って。この網で、美しい魚たちを生け捕りにするつもりだ。


ボード



素敵な親子。フランスの雑誌の1ページのよう。


セシルとマリウス1



透き通る波打ち際でしゃがみ込む私達に、セシルは「こっちへ来て」と手招きをする。
腰の辺りまで水の中に入っていくと、薄いコバルトブルーの中に宝石のような珊瑚と貝の塊があった。



色

(波打ち際)


「わぁ…」
言葉を失う。

珊瑚にピッタリ身を寄せる白い貝は、口を開けると鮮やかなブルーを覗かせる。こんな色の生き物、見たことがない!
波に揺られる私に、セシルは椅子を用意してくれた。有難う、素敵な気遣いに感謝するわ。

夫は丁重にお断りしたのだけど、セシルの親切を断り切れなかった。
海の中で椅子に座っていると、意外な力で波に身体を揺すられる。夫から、もう何度も聞く言葉。

「う、気持ち悪くなってきた」

けれど夫も、波の揺れよりブルーシェルの美しさに、強く惹かれた様子だった。
二人で珊瑚を覗きこむ。時間を忘れてしまった。

色に酔った時間は、瞬く間に過ぎた。
強い陽射しは、影を薄くしている。フランス人の親子は、「もう戻りましょう」と言う。

そうね。思いがけない時間を有難う。アナタたちと、ここでブルーシェルを見ることが出来て、本当に幸せだった。

最後に、何度目かの記念撮影。夫とマリウス。


マリウス1



マリウスはセシルに促されて、何度も私の頬にキスしてくれた。天使の口づけ。

分かれ際、マリウスは照れたように私達に両手を差し出した。手にはいっぱいの白い貝殻。
何て素敵なプレゼント。

私達は、セシルとマリウスと、ジョンと珊瑚。ブルーシェルを決して忘れない。


IMG_2012.jpg



さぁ、私達も部屋に戻ろう。


夕陽



明日もきっと晴れる。


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プロフィール

Natsu

Author:Natsu
主婦。
筋ジストロフィー 女性限定の会「Natsu's Heart」を企画。現在、会員募集中。詳しくは、メールフォームから…お気軽にメールをお待ちしています。

また、「表現者」としてどうあるべきか…が、現在のテーマ。
13歳で筋ジストロフィーを発症。幼い頃から夢見ていた舞台役者を目指して、文化学院へ。演劇を専攻し、そのまま劇団生活に。30歳で下肢障害となり、舞台を降りる。
現在は杖歩行。出来る限り、自分の足で「歩いていきたい」…この想いで、日々のことを綴っていきます。

40代半ばを迎えた今、「表現の道」を模索中です。

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